『21グラムの残滓』 初瀬明生 ( Kindle Store )

2017年12月28日木曜日

 この本は「第1回 デジタル読書ってこんなに楽しい! ライトニングト大会」の書き起こしを始めるちょっと前に読んでいました。これはちょっと読後感を書いておこう……と思っていましたが文字起こしというのはなかなか時間がかかるもので、手伝っていただきながらも気がついたら年末になっていました。たまたま Twitter で流れてきて、「Kindle Store 無料キャンペーン明日までです」というようなポストだった気がするのですが購入した時はキャンペーンは終わっていましたが本来の購入で良かったとおもっています。『21グラムの残滓』という、探偵もの、あるいはSF、です。

私立探偵の宝来。押しかけで助手のアルバイトをする高校生の進藤。二人ともそれぞれ特殊な能力を持っていて、宝来は「ひとの嘘を見分ける」ことができます。宝来は妙な事件の依頼を自分の仕事として手繰り寄せるのですがふたりの能力はすぐに事件の真相に迫るようなものではありません。補い合いつつ進んでいきます。進藤は特殊な能力もさることながら、宝来の考えを整理していく役割を果たします。

「異なる能力を持つ登場人物たちが協力してひとつの目標を目指す」というのは物語の筋立てとして王道のひとつですが、そのなかでも面白いパターンを組み上げたものです。あとがきでは初瀬さんは「次回作はあるかわかりません」と書かれていますがこれは私としては他の話も読みたいです。

 この作品に関して言えば気になったのは、聞き込みにいくまちについて宝来が「嫌な思い出のある場所だ」としていて、のちにそれが説明される場面です。その説明がされた場面、つまり伏線が回収される下りを読んだ時、ちょっと突厥な感じを自分は受けました。突厥な、というのは、私の場合宝来は離婚していることを作中で明かしているので、別れた妻に関しての「嫌な思い出」なのかな……とおもっていたたらそうではなくてまた別のエピソードが明らかにされた、というようなことです。最後まで読んでみると作者の言わんとする筋立てはわかるのですが、私が感じたような感想を他の方も感じることがあるならば、もう少しうまい伏線の張り方があるもかもしれません。

 あと表紙はもっと違ったデザインが良いようにおもいます。特に表紙の作者について記載はないので作者による自作ではないかとおもうのですが、作者に興味を持たせるような表紙デザインがまだありそうです。日本独立作家同盟が主催する Novel Jam が作家、編集者、デザイナーの組で作品を競わせるルールにしていることは作品をひとつのパッケージとして世に送り出すという作業をチームで行うという本として確立された手順を自己出版でも踏襲しているわけですが、この作品についてはパッケージにするにあたり「製作チーム」から他の提案が出されてしかるべきなんじゃないかとおもいます。